和太鼓祭座CD発売までの経緯 −その4(最終回)


 偶然といえば、いま放映中のNHK大河ドラマ「利家とまつ」には、前田慶次
郎が登場しています。ドラマのほうでは美形男性タレントが演じていまして、
KabukiGomenjo! の曲調にあるようなちょっととぼけた感じではないですが、意
識してみるのもおもしろいかもしれません。ドラマでは、はたして秀吉とのから
みと御免状のくだりはでてくるのでしょうか。

 話は、レコーディングが終わったところまで戻ります。
 CDというのは音を記録するものですから、録音さえすれば、あとは簡単と思
われるかもしれません。しかし商業用のCDには、いろいろな約束事があり、
またCDを買ってくれた人にも聞きやすくなるような処理もしなくてはなりませ
ん。
 打楽器は全般的にそうなんですが、とくに和太鼓ともなると、小さい音から大
きな音まで出ます。しかしそれを音の出るままCDに焼き付けても、冴えない音
になってしまいます。なぜなら人間の耳というか脳というのは大した物で、生の
音であれば小さい音は増幅して聞くし、大きい音は制限して聞くようにできてい
るんです。ところがこれを録音して再生すると、非常にスケールの小さい演奏
になってしまいます。また、音声には、体では聞こえてくるけれど、録音ができ
ない種類の物もあります。そう聞こえてしまう理屈は省きますが、とにかくある
種の操作を加えないと、商品化はできません。さらに今回は、繊細な音を出す
山口さんの津軽三味線が加わっているので、より慎重な操作が必要になりま
す。そうした後作業のことをマスタリングと言います。幸い録音家の池田さん
は、こういう操作にも熟達していて(普通の録音家さんは、こうした完全マスタ
リング作業をしません)そうした装置をどこにでも持ち運べるような用意をして
くれていましたので、その機材を八王子まで運んで貰い、去年のクリスマス
イブの日中いっぱいかかって作業をしました。その際、トラック2の波の音や、
トラック5の子どもの声の合成や、多少間違った箇所の除去などもしています。

 やはり課題は、大音量と小音量の差の問題(ダイナミックレンジと言います)
で、この日は一応暫定として決め打ちの試聴盤を作り、それを検討しつつその
後原盤をイギリスに送るまでに何度か調整を施しています。高篠さんも何度か
聞かれたそうですし、池田さんも私もなんども聞き返して、1月初旬の原盤発
送ギリギリまで煮詰める作業をしました。また、津軽三味線独奏と波の音の
合成でも、波の音と楽器の音の被さり具合のバランスや、波の音の性格
(チョロチョロした音だと、曲全体が優しいせせらぎのイメージになりかねない
−津軽じょんから節は厳しいイメージですから)を勘案しつつ作業しています。
トラック5のOnimoNaku の子どもの声の表情作りも念入りにしています。この
あたりは放送音楽の手法です。とにかく普通の商業CDではここまではやら
ないと思いますし、かなり丁寧な作業を施した自信があります。

 さて同時進行で、ライナーノーツの原稿作成と翻訳、ジャケット写真の選択と
デジタル化、ジャケットデザインの提示という作業が進んでいました。このうち、
翻訳と写真全般については、メンバーの勝美さんに押しつける形になってしま
いました。しかも年末年始でしたので、本業もあるのに非常に大変だったろう
と思います。原稿については、高篠さんから提示があったのですが、海外発
売で英独仏西語へ翻訳され、日本語の掲載はないのが前提でしたから、翻
訳のしやすさや、日本人ならだれでも知っている事柄でも、国際的には説明し
にくい事柄があるのを踏まえて、高篠さんのエッセンスは汲んだ上で、あえて
情報量を落として私がリライトさせていただきました。このあたりは祭座さんと
ファンの皆様には申し訳ない気持ちもあるのですが、そういう事情です。本当
はKabukiGomenjoと歌舞伎の関係(西欧人ならだれでも持ちうる疑問です)に
ついてなど、説明したい気持ちもあったのですが。

 こうしてあれこれ追われながら、原盤、原稿、写真を揃え、写真については
デジタル化したCD資料と印刷見本を作った上で発送したのが1月の12日頃
だったでしょうか。本当はもうちょっと余裕があったのですが、突如イギリスか
ら連絡があり、とにかく早く作ってしまいたいので貰える物なら早く欲しいと
いう要望があり、慌ただしいことになってしまいました。
 実はここまでの話では大幅に端折っていますが、同時進行でこの和太鼓CD
企画の発端となったヤマトアンサンブルさんの邦楽合奏CDも、ほぼ同じ作業
をしていました。こちらは祭座収録の3日後から同じホールの小ホールで録音、
暮れも押し詰まってマスタリングなどが進んでいましたので、非常に緊張した
日々を送ってました。

 ということでできあがったCD、
「JAPANESE DRUMS  WADAIKO MATSURIZA」を手に取った方
はご存じかもしれませんが、非常に凝った作りになっています。 いかにイギ
リス側でノって作ってくれたかがわかります。箱ケースジャケットと本体ジャケ
ットに別写真を採用し、祭座の炎のロゴは箱ジャケットの上側面にも小さく入っ
ています。CDはピクチュア化されていて、CDを取り出した向こうにも座長の
写真。内容を気に入ってくれないと、ここまでやってくれないと思います。ただ
惜しむらくは、座長と勝美さんの相談で作ったジャケットデザイン案が採用され
なかったことですが、エッセンスは引き継がれてると思います。ライナーノート
内の写真について、BACHIとかFlowerと題名がついてますが、あれは実は
イギリスに送ったデジタル写真のファイル名だったというオチもありますけど
(笑)
 音質についても、ほぼ原盤通りにCDになっているようです。ただデジタル録
音の音の固さを緩和するためか、アナログ変換を一度行ったようで、ほんの少
しですが音質が暖かくなっているようです。
 さて改めて商業CDとして出版されたアルバムとして聞きますと、よくまとま
っていると思います。これは、普段祭座がライブをする際、ある程度ドラマ性を
考えたレパートリーで構成していたのが幸いしていると思います。演奏につい
ては万人好みではないと思います。ただ、日本人の原風景というか、はやり
の金属的で機械的な和太鼓ではなくて、木質的情熱的なエネルギー、そう、
祭座のHPに出てくる炎のような音を込めようと思いましたし、それはある程度
達成出来ているんではないかと思います。でもこれは座長ほかメンバーが若
いからでしょうか、太鼓合奏をするとノってしまうのでしょう、テンポが変わる
ごとに速いテンポが下から湧いてくる傾向を感じましたが、これはこれで「今」
の反映ではないかと。そういう意味合いでは、昔だけではない、今もある、
独創的でもあると言えるように思います。

 和太鼓祭座さんは、一連のこのプロジェクトにおいて、商業CDデビューをも
のにしました。しかも国際デビューです。これはミュージシャンにとって最高級
の名刺です。どうかこの最高の名刺を生かして、これからの活躍にさらなる
弾みをつけて欲しいと願うばかりです。

 この場を借りて、CD出版に直接間接的に加わったすべての方にお礼申し
上げます。
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 今回和太鼓収録について、各方面に声をかけたせいか、今回CDが出たこ
とで、逆に相談を受ける機会がございます。収録で困ってる方は多いと知りま
した。和太鼓もしくはその関連で、商業CD並みのハイクオリティで収録をお考
えのグループがあれば、お気軽に広瀬までご相談ください。(メールアドレス
は末尾に) 


 最後に文中にでてきた方を紹介します。
◎レコーディングエンジニア
 池田高史(いけだたかし):業務用音響機器メーカー技術者を経て、現在
フリーのレコーディングエンジニア。数々の優秀録音盤を担当。評論家からの
指名の評価も数多い。

  テレマン作品集1  組曲「昔と今の諸国の人々」
   コレギウム・ムジクム・テレマン チェンバロ:中野振一郎
   ライヴノーツ(ナミ・レコード)WWCC-7406
   「STEREO」誌 優秀録音盤  「レコード芸術」誌 準特選

  共作連作<新世紀への賛歌>全曲委嘱世界初演
   東京フィルハーモニー管弦楽団・渡邊一正
   ライヴノーツ(ナミ・レコード)WWCC-7414
   「レコード芸術」誌 優秀録音盤

◎箏、三味線演奏家、教授
 長谷川慎(はせがわまこと):東京芸大邦楽科出身、日本政府の国費派遣
でドイツ、オーストラリアで演奏。気鋭の演奏家である。愛知教育大学講師。
邦楽合奏グループ「大和糸竹(ヤマトアンサンブル)」メンバー。以下は今回の
和太鼓祭座CDのきっかけとなり、同じ日本カテゴリーでは兄弟盤。邦楽合奏
のイメージを塗り替える、鮮烈で刺激的な演奏です。
 ヤマトアンサンブル The art of the Japanese Koto,shakuhachi & shamisen
 ARC MUSIC EUCD1717
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006876B/qid=1027235096/sr=1-6/ref=sr_1_2_6/249-2117785-6892357

◎音楽ディレクター 著述業
 広瀬周平(ひろせしゅうへい):法政大学卒。数々の音楽現場を経て、CD、
放送映画音楽の音楽音響デレクションを担当。かかわった作品の受賞は多い。
作曲家広瀬量平は父。e-mail:sh3@mbi.nifty.com

文責:広瀬周平
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(終わり)

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