和太鼓祭座CD発売までの経緯 −その3


 話はいきなり収録の日に飛びます。

 もちろんここまで、わたしも多数練習を見せていただきましたし、ライブも見
ました。池田さんにも聞いていただきましたし、祭座はリハーサル用に別にホー
ルを用意して、半日曲あわせをするということもしてくれました。もちろんわた
しもでかけて、予備録音を行い、収録資料にしたのは言うまでもありません。

 12/16の日曜日。寒い朝です。小ホールのほうでは地元保育園のお遊戯会
があるとかで、ごった返しています。早いうちから集まったスタッフキャストが
その間を縫って、開館時間になるや手早く準備にかかります。予定では、この日
だけで全曲収録。祭座さんには申し訳なかったですが、それも最初の約束でし
た。 マイクは、まず太鼓を見下ろす位置で高く掲げるものが2本。これが全体
の感じを捉え、あとは演奏の種類に応じて、地上の位置で迫力を追いかける、
という構成です。一番大きな楽屋がレコーディングルームとなり、太いケーブル
が舞台から這ってきます。一曲収録するごとにメンバーが舞台からここに集ま
り、試聴することになります。録音機器は万一に備え、三重バックアップ体制とし
ました。

 早速、演奏者と録音家の調整が始まります。太鼓というのは大音響が出ます
から、どんなに完璧なホールでもよけいな響きが出てしまいます。逆に言うと
和太鼓というのは、「力丸」の解説にもあるとおり、海(野外)をルーツにするそ
うですから、そもそも屋内で鳴らして録音するというのは、難しいことなのです。
詳しくは録音家の大事なノウハウなので書きませんが、ホールには響いても
マイクには妙な残響が入らないような工夫を施す作業が続きます。この間、
ホールのスタッフさんも、ノイズ対策に奔走してくださいました。ありがたいこと
です。この間、短時間ですが、ヤマトアンサンブルの長谷川さん、リチャードさん
も陣中見舞いに来てくださってました。
 収録は、ほぼCDに並んだとおりの順で行われました。
 確かに一日はきついだろうと思いますし、お客がいない演奏、しかも本格収録
ははじめてだそうですから、ペース配分なども難しかったのではないかと思いま
す。
 収録は一曲につき、2〜3テイクずつ。時間がないので、基本は一発収録の
姿勢で臨みましたが、それでその曲の収録を終了するかの判断は、やはり座長
も迷っていたようです。たしかにこうした判断はベテランプロでも迷うことらしく、
次に収録したものに演奏の神様が舞い降りることがあるかもしれないと思うと、
決断しきれないところがあります。
 しかし私個人としては、1曲目「力丸」の冒頭太鼓の一撃の余韻が、すーーと
引き込まれる感触が非常にクリアだったもので、これは全編大丈夫ではないか
という予感は持ちました。あとの熱演は、これはもう祭座の十八番ですから・・。

 2曲目、「津軽じょんから節」は山口成史さんの津軽三味線ソロですが、太鼓
とはまた別の響き方をするので、調整は苦労したようです。津軽三味線の鋭い
一撃に呼応するように、ホールに住んでる龍がうなっているように聞こえないで
しょうか? 津軽三味線は音階がある打楽器という側面が、この構成のなかに
感じて貰えれば幸いです。ちょうのこの曲を収録中にリチャードさんがやっきて、
Good Sound!と言っていました。波の音は、後日マスタリング時に山口さんの指
定で合成しています。これは7曲目「一陣の風」冒頭の風の音も同様です。

 3曲目「男ここにありき」は、白眉の太鼓ファイトだと思います。これはモニ
ターしていて非常に楽しい曲で(ファイトしてるのに申し訳ないけど)、かけあ
いしてる様子がわかります。録音側としては、もうちょっと左右にファイターが
分かれて、喧嘩してる様子が浮き立てばという反省がないわけでもありません
が、これはおもしろいと思います。

 4曲目「傾奇御免状」は、音色とリズムが他の曲とは違います。というのは、
リズムを最近はやりのタイト方向に締め上げることをあまりせずに、音色も低め
を使い、あえて洗練されてない方向で曲がまとまっていると思います。これはこ
のCD企画では重要だと思える点で、剛と柔、動と静にだけ多様さを求めるので
はなくて、タイトではない味、こう言うと祭座は怒るかもしれませんが「田舎臭
さ」の妙味を、このCDに加えていると思います。

 5曲目「鬼も泣く」は、女声歌唱と太鼓のバランスに苦労しています。太鼓の
鼓という文字は、「鼓舞」という言葉にあるように、盛り上げる方向に使われる
とだれもが思っています。それを子守歌に使うのですから。お子さんがこれを聞
いて眠ってくれるといいのですが・・・。なお冒頭の子どものはしゃいだ声は、
収録休憩時間中に、子ども座員たちに舞台で遊んでもらってるところを隠し録り
させてもらいました。作ってない素朴な声で、いいスパイスだと思います。

 6曲目「玉屋!鍵屋!」は、子ども座員だけの演奏です。こうした揃いきれな
い、つまり味わいとしてダルな音色というのは、全体的出来から判断する大人
には、かえって出せない音でしょう。座長は揃い方について迷いがあったようで
すが、CD構成の上にきちんと乗っていると思います。

 7曲目「一陣の風」は、津軽三味線と太鼓の競演です。じつはこれの収録には
難しい問題がありました。津軽三味線と太鼓の音量が違いすぎるため、収録す
るほうとしては、それぞれのマイクで捉えたいですから、離した配置にしてもらい
たい。でも演奏としては、目の前でないとタイミングが取りにくい。さらに太鼓
奏者には津軽三味線の音が聞き取りにくいという問題もあります。これは座長
ほか太鼓側のキーマンと山口さんの間で、綿密に打ち合わせて貰って、音の
タイミングについては、モニタースピーカーを補助的に使うことで、なんとか演奏
して貰いました。三味線が終わった瞬間、間髪入れずに響く中音の太鼓の
スコーンという抜け方に注目してください。快感だと思います。

 8曲目「楽」9曲目「大楽寺囃子」は、小粋な小品に仕上がってると思います。
祭座の祭の部分、日本人が村祭に持つ原風景が浮かび上がってるというのは
大げさでしょうか? でも外国人にもそういうマインドは聞いて貰いたいところで
すね。10曲目「和太鼓祭座メドレー」は津軽三味線も参加する、祭座レパート
リーのなかで一番の大編成曲です。もちろん「一陣の風」と同等以上の苦労が
ありした。こういうメドレー曲があるのは、当初の企画にあったバラエティに富ん
でいて欲しいという希望に、よく合致していると思います。これも偶然の神様に
感謝すべきことでしょうね。途中チャッパ(小さいシンバル)が、左右に走り回っ
てるのがわかるでしょうか? これは座長が張り切って回ってくれました。

 最後の曲「祭座の唄」は、声楽的によくできた声、歌がうまい、という方向の
曲ではないと思います。あくまでも地で歌うからこそ伝わる物がある、と言って
るかのようです。西欧人ならば10曲目をラストと考えるのではないかと思いま
す。しかし静かなお礼の歌を最後に入れてくるというあたりは、これは祭座から
の提案でした。この配置は祭座CDの独自性になっていると思います。

 収録が終わったのが夜8時半頃。10時までホールは確保してましたが、さす
がに限界でしょうか。

 そしてクリスマスイブに八王子の某所でマスタリング。各種微調整や合成作業
点検作業などをして、完成録音盤を作り上げます。その間並行して、メンバーの
勝美さんが、翻訳作業と写真整理とデザインをやってくださっていました。

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